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元レーサーが教える運転技術

人車一体なんて空想に過ぎない

よく、レース業界では「人車一体」なんて言葉が使われます。これは、車とドライバーが一体になるというそのままの意味ですが、実際に1トン以上もある車を手足のように操れる人間はいません。

神のドライビングテクニックを持つと言われるF1ドライバーでさえ、雨の日などはあっけなくスピンしますし、事故も起こします。

ドライビングテクニックというのは、「ハンドル操作」、「ブレーキ操作」、「シフト操作」など、様々な技術が必要です。また、まっさらな車を速く走らせるためのセットアップができる能力もドライバーには求められます。

ですが、レースで一番大事なのはやはり「タイヤのコントロール」です。限られたキャパの中でドライバーはレース中にタイヤを持たせなくてはいけませんし、ここぞというときは、残りのタイヤを使ってライバルに差をつけることもできなくてはいけません。

タイヤが路面と設置している面積はハガキ1枚分と言われています。その中でドライバーは車をコントロールしなくてはならないのです。タイヤのコントロールが人より優れているドライバーは、やはりレースでも強いですし、勝てるドライバーです。

しかし、タイヤの限界を超えれば、どんな腕を持つドライバーでも無力ですし、タイヤの限界を超えて走ることはどんな腕を持ったドライバーもできません。

私は「車を運転していて何が難しいですか?」という質問をよく受けますが、車の運転で一番難しいと思っているのは「ブレーキングです」と答えますが、レースで勝つために一番必要なのは「タイヤのコントロールです」、とお答えしています。

これはトップカテゴリーになればなるほど、タイヤ選択で勝敗が決まってきますし、ドライバーのタイヤの使い方一つでレースに勝てるか、勝てないかが決まってきます。

よく、FIやGT500などのトップカテゴリーのレースの優勝インタビューを聞いていると、「今日はタイヤと車のセットアップが上手くいったので、勝つことができました」とか、「今日はタイヤ選択が上手くいきましたね」、などのコメントを聞いたことがあると思います。

このように、タイヤ選択というのはレースに勝つために重要であり、どのタイヤを選択するかによって勝敗と言うのは大きく変わってくるものです。

つまり、タイヤのキャパを超えた時点で車は1トンを超えるただの鉄の塊となり、人車一体になんてなることはできないのです。このことを一般ドライバーの方にもよく知って頂きたいですし、タイヤの重要性というものを知っていただきたいです。

よく、雨の日の高速道路をもの凄いスピードで飛ばしている人を見ます。運転に自信があるのでしょうけれど、タイヤと路面の設置が限界を超えた瞬間、車はどこに飛んでいくか分かりません。

今の車は電子制御されているのと、一昔前に比べて一般の市販タイヤもグリップ力がとても上がっていますので、雨の日でも多少スピードを出してもあまり怖さは感じないかもしれません。

ですが、雨の日でスピードを出せば出すほど、「ハイドロプレーニング現象」が起きて確実に路面との設置面積は減りますし、タイヤのグリップは失われていきます。ですので、一瞬のミスが大事故に繋がってしまいます。

このことを一般ドライバーにもよく知っていただき、事故を未然に防ぐためにもタイヤの溝や空気圧を日頃からチェックしていただきたいですし、晴れの日でも雨の日でもスピードは抑えて安全運転をしていただきたいと思います。



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