私が長いことレースをやっていたので、よくこのような質問をされます。
レーサーパンダさんが車の運転をしていて何が一番難しいと感じますか?
私はこの質問に対してこのように即答します。車の運転で一番難しいのは「ブレーキング」ですと。
車の運転で一番難しいのはブレーキングです。車庫入れでも縦列駐車でもありません。私はよくアルバイトで、一般ドライバーの危険回避などの体験イベントにスポンサーから呼ばれ、一般の人を指導する仕事を何度か経験したことがあります。
その時によくやるのが、路面をわざと濡らしてスピンを体験してもらったり、パイロンを並べてスラロームをしてもらい、車の運動性能を知ってもらったりと、色々なことを体験してもらいます。
一般ドライバーでも、ある程度の項目はクリアできるのですが、ほとんどの方が出来ないのが「ブレーキング」の項目です。
やってもらうことは簡単で、ある場所から時速60キロになるまでスピードを上げてもらい、パイロンとパイロンの間で車を止めてもらうというテストです。
時速60キロですと、一般車の場合、急ブレーキをかけて止まれるまでの停止距離は約41m必要と言われています。そのうち、空走距離が17m、制動距離が24mです。
空走距離というのは、ドライバーが危険を感じてからブレーキを踏むまでに車が進む距離のことを言い、制動距離と言うのは、ドライバーがブレーキを踏んでから車が停止するまでに進む距離のことを言います。
そのためコースを設定するときには、一般ドライバーが体験することを考えて、パイロンとパイロンの間をある程度余裕を持って設置するのですが、1発で止まれる方はほとんどいません。
私の記憶では数百人見て、1発で止まることができたのは、1人もいなかったと記憶しています。つまり、それだけ車を正確に止める、ということは難しいと言うことです。
また、何度挑戦しても止まることが出来ない方はたくさんいました。普通の一般ドライバーはフルブレーキングを踏む経験なんてほとんどないので、当然と言えば当然です。
ですが、レーシングドライバーはフルブレーキングができないと仕事になりません。一般の方はブレーキを踏むときにスーッと踏みます。しかし、レーシングドライバーはブレーキを蹴飛ばす勢いで踏みます。
私も現役のときは、ゴムチューブをブレーキに見立ててよく鍛えました。自分が踏めているようで、フルブレーキングというのは踏めてないことが多いんです。
ある程度の脚力がないと自分がしっかりとブレーキを踏んでいたとしても、ブレーキの余力が残っていたりします。
最近の車はABSがとても優秀ですから、ある程度はごまかすことも出来ると思いますが、私はわざとABSを外して、フルブレーキングの練習をたくさんしたものです。
また少しレーシングテクニックのお話をすると、ブレーキングというのは、ブレーキングを開始するポイントよりも、終わらせるポイントの方が重要です。ブレーキには「止まるブレーキ」と「残すブレーキ」の2種類あります。
止まるブレーキとは、車の車速を落とすためのブレーキのことをいい、残すブレーキとは、コーナーを曲がるときにフロントタイヤに面圧をかけて、タイヤの設置面積を上げるためのブレーキを言います。
少し難しい話かもしれないですが、ブレーキングというのはただ車を止めるだけのものではなく、プロはこの2つのブレーキを上手く使い分けて、車をコントロールしています。
また、どんなコーナーにも理想のブレーキペダルポイントというのは一箇所しかなく、どこのポイントで減速を終えるかによって、タイムに大きく影響してきます。
レースの世界では、「ブレーキングを制するものはレースを制する」、という言葉があるくらいですから、やはりブレーキングと言うのは、車の運転技術で一番難しいと言えます。
ですので、ストレートで飛ばすことは70歳のお婆ちゃんでもいくらでもできると思いますが、この時速で、この距離で止まってください、と言われて、即対応できる人はほとんどいないと思います。
車の運転技術で一番難しいのは「ブレーキング」です。もし興味があれば、JAF(日本自動車連盟)が今お話した内容を体験できる場を設けていますので、一度体験してみてはいかがでしょうか。
下記にJAFのホームページのURLを記載しておきますので、興味のある方や腕を磨きたい方は、ぜひ一度問い合わせをして体験してみることをお勧め致します。
●JAF公式ホームページ 体験イベント問い合わせ
http://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/kyt/index.htm
車の運転で一番難しいのはブレーキング!
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